2022/11/30

論文「哺乳類の新しい性決定の仕組みを発見―Y染色体とSry遺伝子が消失してもオスは消滅しない―」アマミトゲネズミ 


2022年11月29日

北海道大学
国立成育医療研究センター
東京工業大学
国立遺伝学研究所
沖縄大学

ポイント

●Y染色体とSry遺伝子なしにオスが生まれる哺乳類の新しい性決定メカニズムを世界で初めて発見。
●ヒトのY染色体が消えてしまっても、男性消滅を回避できる仕組みを明らかに。
●一般社会において、性の多様性の意義と重要性が科学的に理解されることに貢献。

概要

北海道大学大学院理学研究院の黒岩麻里教授らの研究グループは、Y染色体とSry遺伝子をもたないアマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)という哺乳類種を対象に、世界で初めてSry遺伝子なしにオスが決定される仕組みを解明しました。

ヒトを含む哺乳類のほとんど全ては、男性(オス)はY染色体をもち、Y染色体上のSry遺伝子により性が決定されます。ほんの少数の種において、Sry遺伝子がなくてもオスが生まれる例が報告されていますが、その性決定の仕組みはまったく明らかにされていませんでした。アマミトゲネズミは奄美大島のみに生息する日本の固有種で、国の天然記念物及び国内希少野生動植物種に指定されています。Y染色体が消失していることから、性染色体はX染色体1本のみをもつXO/XO型です。本種がY染色体をもたないことは、1970年代から知られていましたが、材料が希少であることから、長年にわたり研究が困難な状況にありました。研究グループは、保全生態調査、ゲノム解読、情報解析、ゲノム編集解析などを専門とする国内の研究者らの協力を得て、アマミトゲネズミのゲノム中の雌雄差を網羅的にスクリーニングし、唯一残されていた性差があるゲノム領域を特定しました。

性差のある領域が見つかったのは、1本のみ残されたX染色体ではなく、常染色体(3番染色体)上に存在するSox9遺伝子の上流でした。この領域では、17 kbの配列の重複をオスのみがヘテロでもつことが明らかになりました。重複配列を詳しく解析した結果、Enh14とよばれるエンハンサー配列が含まれることがわかりました。つまり、エンハンサーを含む配列が重複しているとオスに、重複していないとメスになることが予測されました。しかし、アマミトゲネミの生体材料を用いた研究は不可能であるため、アマミトゲネズミのエンハンサー重複配列をもつマウスをゲノム編集技術により作り出すことに成功しました。重複配列をもつマウス胚では、XXでありながら卵巣に精巣分化を引き起こす遺伝子発現が確認されました。この結果は、この重複配列が性決定に働き得ることを示すものです。

Sry遺伝子に依存しない哺乳類の性決定メカニズムの解明は、世界で初めてです。さらに、遺伝子そのものではなくエンハンサーという遺伝子調節領域により性が決定されるという発見も、大変珍しいものです。また、アマミトゲネズミでは常染色体が新しい性染色体へと進化していることが明らかになりました。このように、新しい性染色体が進化することを性染色体の転換(ターンオーバー)とよび、哺乳類における性染色体のターンオーバーはこれまでに報告がなく、これも世界で初めての発見です。以上のように、本研究は世界的にも大変インパクトの大きいものです。

なお、本研究成果は、2022年11月28日(月)にThe Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS, 米国科学アカデミー紀要) 誌に掲載されました。

論文名:Turnover of mammal sex chromosomes in the Sry-deficient Amami spiny rat is due to male-specific upregulation of Sox9 (Sry遺伝子をもたないアマミトゲネズミでは、オス特異的なSox9遺伝子の転写制御を獲得することで性染色体の転換(ターンオーバー)が起きている)
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2211574119

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2022/11/23

奄美大島大和村 アマミノクロウサギシンポジウム 2022年12月10日(土)13:30-

 大和村では、アマミノクロウサギの研究飼育施設(仮称)の建設を予定しています。
そこで、各スペシャリストから講演いただき、今後の保護対策のあり方や施設の役割、島っちゅとアマミノクロウサギとの関わり方を参加者のみなさんと一緒に考えたいと思います。

https://www.vill.yamato.lg.jp/kurousagi.html

 

プログラム
1.アマミノクロウサギの穴
奄美群島国立公園管理事務所・鈴木真理子氏

2.大陸から島で生き残ったアマミノクロウサギの生態と保全の今後
沖縄大学客員教授・山田文雄氏

3.農業被害を防ぎ、アマミノクロウサギと共に暮らす~侵入防止柵による棲み分け~
鹿児島大学准教授・高山耕二氏

4.アマミノクロウサギの傷病保護と飼育
鹿児島市平川動物公園学芸員・落合晋作氏

5.ロードキルを防ぎたい!アマミノクロウサギの視力を考える
東京農工大学教授・田中あかね氏

6.アマミノクロウサギ新たなる生態発見についてフィールドからの報告
写真家・浜田太氏

アマミノクロウサギシンポ

開催日時

  • 2022年12月10日(土曜日)13時00分~2022年12月10日(土曜日)18時00分

開場は12時30分

場所

名称

大和村防災センター2階ホール

住所

鹿児島県大島郡大和村思勝

ホームページ

大和村防災センター

募集人数

100名

Youtube配信有
大和村役場チャンネル
https://www.youtube.com/@user-xi3du6kz2e

 

2022/11/03

公開シンポジウム開催 「知りたい! ヤンバルクイナ保全の最前線」 2022年12月3日(土)ハイブリッド開催

 知りたい! ヤンバルクイナ保全の最前線
 2022年12月3日(土)13:00-16:20
 国頭村民ふれあいセンター・ホール(ハイブリッド開催)
 沖縄県国頭郡国頭村字辺土名112

オンライン配信をご希望の方は事前申込が必要です。
現地会場参加の場合は、申込不要
参加費無料

オンライン配信のお申し込みはこちらから
https://forms.gle/b5Ub6avHAB4kiHFg8
事前申込締切:2022年11月26日(土)

問い合わせ
env42101-contact@googlegroups.com

 ヤンバルクイナは沖縄のやんばる地域のみに生息する日本で唯一の飛べない鳥で、1981 年に発見されました。一時期は個体数が激減しましたが、マングース対策など生息域内での保全と、飼育下繁殖などの生息域外での保全の両輪で様々な保護対策を行った結果、生息数が回復しつつあります。2021 年には国頭村を含むやんばる地域が世界自然遺産に登録され、ヤンバルクイナは豊かな自然環境の象徴としても注目されています。


 私たちは昨年度から環境研究総合推進費の委託を受けて、ヤンバルクイナのゲノムやホルモンの情報を集めると共に、精子や卵子の保存条件を検討する研究を開始しました。本シンポジウムでは、野生下での研究と平行して進めている、こうした「生息域外保全」の最先端の取り組みをご紹介します。

 

 



2022/09/09

【論文】野外のイエネコとクマネズミから明らかになったトキソプラズマ感染のホットスポット —牛舎のネコ管理がカギ?—

原著論文

Okada S, Shoshi Y, Takashima Y, Sanjoba C, Watari Y, Miyashita T. (2022) Role of landscape context in Toxoplasma gondii infection of invasive definitive and intermediate hosts on a World Heritage Island. International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife 19: 96-104.
https://doi.org/10.1016/j.ijppaw.2022.08.010

 

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野外のイエネコとクマネズミから明らかになったトキソプラズマ感染のホットスポット ——牛舎のネコ管理がカギ?――

発表者
岡田 その (東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻 大学院生(当時))
所司 悠希 (東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 大学院生)
高島 康弘 (岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科 准教授)
三條場 千寿(東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻 助教)
亘 悠哉  (国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 主任研究員)
宮下 直  (東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻 教授)

発表のポイント

  • 世界自然遺産に指定され多くの絶滅危惧種を有する奄美群島徳之島において、トキソプラズマ感染症のホットスポットを、野外のイエネコとクマネズミの抗体保有率の分布解析から明らかにしました。
  • イエネコとクマネズミともに、牛舎の戸数が多い景観で抗体保有率が高いこと、その背景には、両種の個体数密度が関与していることが推測されました。
  • 今後、多数の動物種から構成されるトキソプラズマの感染ネットワークを景観スケールで解明することで、絶滅危惧種の保全と人や家畜の健康維持を両立できる外来種管理が期待されます。

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の宮下直教授、三條場千寿助教らは、森林総合研究所、岐阜大学との共同研究により、トキソプラズマの終宿主であるイエネコと中間宿主であるクマネズミの抗体保有状況を調べ、その分布に影響する環境要因を空間統計解析により探索しました。その結果、牛舎の戸数が多い景観で2種ともに感染リスクが高く、ホットスポットであることが判明しました。イエネコとクマネズミはともに捕食などを通して在来生物にインパクトを与えている侵略的外来種であることから、今回の成果は外来種管理と感染症のリスク管理の統合を可能にする新たな発見であり、多種系からなる感染ネットワーク研究への発展が期待されます。

発表内容

図1:トキソプラズマ抗体の陽性率およびOD値と周辺の牛舎戸数の関係
 イエネコ(左)では半径1km以内の牛舎密度、クマネズミ(右)では半径100m以内の牛舎密度を表す。図中のプロットはデータで、色が濃いほどサンプル数が多いことを示す。(拡大画像↗)


 現在、外来種は世界的に生物多様性を脅かす重要な要因の一つとなっています。わが国でもそうした例は多数ありますが、なかでも野生化したイエネコの問題が深刻化しています。イエネコは捕食により多くの在来生物を減少させており、特に島嶼部でその影響は顕著です。さらに、イエネコは人獣共通感染症の伝播の担い手でもあるため、人の健康への影響も懸念されています。トキソプラズマ原虫が引き起こすトキソプラズマ症はその代表です。トキソプラズマ原虫はネコ科動物を終宿主とし、ヒトを含むあらゆる温血性動物を中間宿主とします。感染により、妊婦の流産や、免疫力が低下した高齢者に重篤な症状を引き起こすことがあります。したがって、野生化したイエネコの管理を考えるうえでは、生物多様性への影響に加え、人獣共通感染症のリスク評価を行うことが必要です。
 これまで、トキソプラズマの感染状況の調査は、イエネコなどの哺乳類を対象に世界各地で行われてきました。しかし、地域スケールで終宿主と中間宿主の感染状況の空間分布を同時把握し、環境要因と紐づけるリスク評価はほとんど行われてきませんでした。感染率を高める環境要因を把握できれば、イエネコ管理や環境管理を重点的に行うべき場所が特定でき、トキソプラズマ感染症のリスクを低減できるはずです。
 本研究は、世界自然遺産に指定され、アマミノクロウサギなどの希少種が数多く生息する奄美群島の徳之島で行いました。徳之島では、イエネコによる希少種の捕食が問題になっていますが、私たちの先行研究により、イエネコのトキソプラズマの抗体保有率が47%にも達していることがわかりました。この島では肉牛生産のために多数の牛舎があり、その半数近くで野外にいるイエネコへの餌やりが行われています。本研究では、終宿主であるイエネコと代表的な中間宿主である外来種クマネズミを対象に、広範なサンプルを集めてトキソプラズマに対する抗体の保有率を推定し、感染のホットスポットを景観スケールから特定することを試みました。イエネコの血液サンプルは、徳之島の3町が実施しているネコ管理事業で捕獲された個体から、またクマネズミの血液サンプルは独自に行った捕獲調査により採取しました。トキソプラズマ原虫のタキゾイト(注1)を抗原として、ELISA法にて抗体保有率の検出・定量を行いました。イエネコ、クマネズミ共に陰性コントロールOD値(注2)をもとに閾値を決め、陽性率を算出しました。
 本研究では、抗体陽性率とOD値の2つの感染指標を対象に、一般化線形モデルを用いたモデル選択とモデル平均から、感染リスクに影響する環境要因を探索しました。その際、捕獲地点から距離が異なる様々な円形バッファー(注3)を発生させ、その範囲内の土地利用や牛舎戸数などの景観変数を算出しました。情報量基準(注4)によるモデル選択により、感染に影響する最適な空間スケールを推定したうえで、感染指標に影響する要因の強さを分析しました。
その結果、イエネコでは半径1kmの大スケールでの景観変数が、クマネズミでは半径100mの小スケールでの景観変数が、感染指標の値をよく説明していることがわかりました。空間スケールの違いは、イエネコとクマネズミの行動圏の広さと概ね合致していました。またイエネコ、クマネズミともに、上記スケールでの牛舎密度が高いほど感染指標が高くなることが判明し(図1)、牛舎が高密度な場所では両種とも陽性率が80%にも達することがわかりました。さらに、クマネズミの捕獲調査より、クマネズミの密度は、農地や林地、宅地周辺よりも牛舎周辺で高いこともわかりました。イエネコ密度は牛舎戸数が多い景観で高いという先行研究と併せて考えると、トキプラズマの終宿主、中間宿主がともに高密度である場所で感染サイクルが廻りやすく、感染のホットスポットになっていることが推察されました。
 本研究の結果から、トキソプラズマ感染症のリスク低減には、牛舎周辺でのネコとクマネズミの管理が推奨されます。従来、牛舎では毒蛇ハブの侵入防止のため、餌となるクマネズミの天敵とされるネコへの餌付けが頻繁に行われてきました。しかし、これはトキソプラズマ感染症のまん延という人へのリスクを高めるばかりか、飼育している牛への感染リスクも高めている可能性もあります。家畜伝染病予防法では、畜舎におけるネコ等の愛玩動物の飼育を禁じ、捕獲や飼料の適正管理によるネズミの管理を求めています。この制度の遵守が感染ホットスポットの解消につながると考えられます。また今後は、トキソプラズマ感染が家畜のウシやヤギ、そして野生動物のイノシシやアマミノクロウサギなどにどの程度まん延しているかの調査が急務です。居住地から農地、森林までを包含する景観スケールからトキソプラズマの感染ネットワークの構造が解明されれば、絶滅危惧種の保全と人や家畜の健康維持を両立できる外来種管理が可能になると考えています。
 本研究は、科研費挑戦的萌芽(課題番号:1K19868)、および(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(課題番号:JPMEERF20184004)」の支援により実施されました。

発表雑誌

雑誌名
International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife
論文タイトル
Role of landscape context in Toxoplasma gondii infection of invasive definitive and intermediate hosts on a World Heritage island
著者
Sono Okada, Yuki Shoshi, Yasuhiro Takashima, Chizu Sanjoba, Yuya Watari, Tadashi Miyashita*
DOI番号
10.1016/j.ijppaw.2022.08.010

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 生圏システム学専攻 生物多様性科学研究室
教授 宮下 直(みやした ただし)
Tel/Fax:03-5841-7544
E-mail:tmiya<アット>es.a.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 タキゾイト
     宿主内に侵入した際の活発に増殖するトキソプラズマ原虫の形態
  • 注2 OD値
     光学濃度(Optical Density)
  • 注3 円形バッファー
     地図上のある点を中心に発生させた一定距離の円内の領域
  • 注4 情報量基準
     モデル選択の際に使われるモデルの良し悪しを表す統計的指標

東大プレスリリース
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20220902-1.html

森林総研プレスリリース
https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2022/20220902/index.html