2022/06/03

【報道】マダニが媒介する感染症「SFTS」に要注意! 医療情報学教授が懸念

日刊ゲンダイDIGITAL
2022/6/3(金) 9:06配信 

掲載記事から紹介

 永田 宏/長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授


新型コロナがようやく落ち着いてきたが、その陰で地味に勢いを増している感染症がある。中でもマダニが媒介する新規感染症が、医療界で静かな注目を集めている。それが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)だ。

 発生地は中国東北部。今世紀に入ってから、出血熱の症状を呈する患者が出始め、2011年に原因ウイルスが特定され、「SFTSウイルス」と呼ばれている。感染初期は、インフルエンザに似た症状が出るが、重症化すると血液中の血小板が急激に減少する。そのため皮下や消化器粘膜から出血しやすくなり、紫斑が現れたり下血したりする。さらに重症化すると、神経症状(意識障害、痙攣など)が出て、昏睡状態に陥り、死に至る。

日本では、12年に山口県で50代女性の感染が確認された。風邪の症状に加え、脇の下のリンパ節が腫れ、手足が脱力し、白血球と血小板が著しく減少していた。入院治療の甲斐なく、4日目(発症から7日目)に出血性ショックで死亡した。死後の検査でSFTSウイルスが発見され、診断が確定したのである。

これが日本初の患者だ。これを受けて、13年には4類感染症(全数報告義務)に指定された。その後、患者は増え続け、西日本一帯で毎年60人から100人、少しずつ増えながら推移している。しかも徐々に東に勢力を広げており、21年には千葉県で関東初の患者が確認された。中国における致死率は30%以上、日本国内でも20%前後と、かなり高い。

ウイルスを媒介するのは、フタトゲチマダニやタカサゴキララマダニなど、日本中に普通に生息しているマダニである。都会人はマダニなど見たことがないし、まして刺された経験はほとんどないだろう。布団やカーペットにすみついて、ハウスダストの原因となるダニとは違う、吸血性の大型ダニ(数ミリ~1センチ程度)である。ヒトの皮膚に長い針(正しくは顎)を突き刺し、そのままじっと張りついて、数日から1週間以上にわたって血を吸い続ける。満腹になると、離れてどこかに行ってしまう。その間、ヒトの方は痛みやかゆみをほとんど感じない。見つけても、手で引きはがせないほどしっかり張りついているため、皮膚科に行って、皮膚ごと切り取ってもらうしかない。

とはいえ、それらのマダニのSFTSウイルス保有率は数%に過ぎないとされている。だから刺されたからといって、直ちに病気を心配する必要はない。また感染しても、若くて健康なヒトは無症状ないし軽い風邪程度の軽症で済む。患者の大半は中高年や高齢者に限られる。

 しかし、感染した患者やペットからの2次感染があるので注意が必要だ。実際、SFTSに感染したイヌやネコを診察した獣医師が感染した、という事例もある。

「アビガン」が治療に有効との報告も

 治療薬はまだ開発されていないが、富山化学工業(現・富士フイルム富山化学)が開発したインフルエンザ治療薬「アビガン」が有効という報告がある。アビガンは新型コロナに効くかもしれないと臨床研究が行われてきたが、残念ながら有効性は立証されなかった。しかしSFTSに対しては、日本と中国で行われた予備的な治験で、致死率が半減したとされている。

感染を防ぐには、マダニに刺されないことだ。アウトドアの際には、できる限り長袖・長ズボンで肌の露出を避けるか、ディート入りの虫よけスプレーを使うなどの対策が必要だ。ペットにも、マダニよけの飲み薬を与えておこう。ペットが感染すればヒトにうつる心配がある。またペットの毛に取りついたマダニが帰宅後、飼い主や家族に寄生するケースもある。室内に入れる前にブラシをかけるなどして虫を落としておけば、安心である。

アウトドアに行かなくても用心に越したことはない。マダニはシカ、イノシシ、サルなどの野生動物に寄生して移動する。最近は大都市の市街地でも野生動物が頻繁に出没するようになってきた。そのため街中の公園や郊外の貸農園で、マダニに寄生される被害が増えてきている。  

マダニはSFTS以外にも怖い病気を持っているので、風呂に入ったときに鏡で全身をチェックするなどしたほうがいい。それらしいものが見つかったら、迷わず皮膚科に行くことをおすすめする。