報道(和文),原著論文および解説(英文)を以下にお知らせします.
----------------
【報道 ナショナルジオグラフィック】
野生ラッコ4頭が強毒寄生虫トキソプラズマで死亡、「見たことがない重い症状」、拡大を警戒
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ae0e2ddb629a04cca04b37fab683c95424ba1f3
National Geographic
2023/6/8(木) 11:02配信
文=MELANIE HAIKEN/訳=稲永浩子
(概要)
ヒトにも感染する寄生虫のまれな株、米国カリフォルニア州
野生のカリフォルニアラッコ(ミナミラッコ、Enhydra lutris nereis)4頭が非常にまれな寄生虫に感染して死亡したことを受け、2023年春、米カリフォルニア州の野生動物当局は異例の警告を発した。
原因となった寄生虫は、トキソプラズマ症を引き起こす原虫(単細胞の寄生生物)であるトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の株の1つで、これまで米国内では野生のブタで一度しか確認されたことがなく、水生生物で見つかったのは初めてだ。また、この株は強毒性で、人間や他の哺乳類にも感染する恐れがある。
今回のラッコ4頭は、2020年から2022年にかけてカリフォルニア州中部沿岸で死亡しているのが発見された。「いずれも寄生虫の数が桁はずれに多く、脂肪の中で大量に見つかり、重度の脂肪組織炎が確認されました」と、カリフォルニア州魚類野生生物局の野生動物獣医、メリッサ・ミラー氏は話す。他の株によるトキソプラズマ症では動物の脳と中枢神経系が侵されることが多いので、この4例は非常に際立っている。 「この4頭のラッコは、他の株に感染したラッコよりも重症で、短期間で死亡したようです。感染から数カ月や数年ではなく、数週間で死亡したとみられています」。ミラー氏は、2023年3月22日付けで学術誌「Frontiers in Marine Science」に発表された今回の事例に関する論文の著者の一人だ。
トキソプラズマは、飼いネコを含むネコ科動物の腸内でのみ増殖できる。人間も常時、全人口の3分の1が感染しているとされるが、妊娠中に初めて感染すると流産や先天異常の恐れがあるので、妊娠中の女性は飼いネコのトイレの掃除は控えたほうがいい。
感染しても一般に症状は軽いものの、トキソプラズマは自然界に広く存在し、ほぼすべての哺乳類や鳥類が感染する可能性がある。ミラー氏によれば、おとなのカリフォルニアラッコの60%に、原虫が活動的な状態での感染があるという。ラッコの亜種であるカリフォルニアラッコは、カリフォルニア州では絶滅の危機にあるとされ、3000頭ほどしか残っていない。
「この発見には私たちも大変ショックを受けました」と、論文の共著者で米カリフォルニア大学デービス校獣医学部のカレン・シャピロ准教授は話している。 「20年もの間、他のタイプのラッコのトキソプラズマ症の特徴は調べていたのですが、この株はまったく知りませんでした。いままでに見たことがない大変重い症状をもたらすので、論文で注意を喚起したかったのです」 遺伝子解析の結果、別の予期せぬ事実が明らかになった。この株が、30年ほど前にカナダのピューマ(クーガー)2頭から採取されたサンプルと一致したのだ。その起源から「COUG」と名づけられたこの株は、カナダのブリティッシュ・コロンビア州ビクトリアで、住民が汚染された飲料水からトキソプラズマ症に集団感染したことをきっかけに発見された。
飼いネコとの接触や、十分に加熱されていない食肉や生の貝類などの食材を介して感染する人もいる。症状が出ても、微熱や筋肉痛程度で済むことが多い。しかし、免疫不全患者などの場合、脳やその他の臓器の損傷を伴う重症に陥ることもある。 シャピロ氏の話では、このほかにラッコのCOUG株感染が疑われる事例が少なくとも5例確認されており、現在、さまざまな検査が進められている。
気候変動でさらに海へ流出か
雨水とともに海洋に流入したトキソプラズマは、カリフォルニアラッコの大好物である貝やカニに取りこまれて蓄積される。
トキソプラズマは、海水で最長2年間生存することができる。また、寄生した細胞に潜んで何年間も休眠し、宿主の免疫系が弱くなると活動を再開することもある。 「トキソプラズマは、世界で最も広範囲で繁栄している寄生虫の1つと考えられています。あちこちに移動して宿主に寄生する多くのわざを持っているからです」とミラー氏は言う。
そして米国西部では、降水量の増加がトキソプラズマの繁栄を後押ししている可能性がある。
近年、カリフォルニア州では気候変動の影響で、集中豪雨や洪水、高潮が激しさを増すと予測されている。その結果、トキソプラズマに感染したネコ科動物のふんが海に流出する量も増える恐れがある。ただしシャピロ氏は、明確な結論を出すには今後も長期にわたる研究が必要だと話す。
シャピロ氏の研究の結果、雨期に採取したムール貝は、乾期のムール貝よりもトキソプラズマが多いことが明らかになった。別の研究では、海洋のトキソプラズマの量が降水量の増加と関連していることが示されている。
ラッコの命を奪う病気はほかにも
(以下略,URLを参照のこと)
【原著論文】
Melissa Ann Miller1,2*†, Cara A. Newberry1,2†, Devinn M. Sinnott3†, Francesca Irene Batac1, Katherine Greenwald1, Angelina Reed1, Colleen Young1, Michael D. Harris1, Andrea E. Packham2 and Karen Shapiro2,3. 2023. Newly detected, virulent Toxoplasma gondii COUG strain causing fatal steatitis and toxoplasmosis in southern sea otters (Enhydra lutris nereis). Front. Mar. Sci., 22 March 2023. Sec. Marine Conservation and Sustainability. Volume 10 - 2023 | https://doi.org/10.3389/fmars.2023.1116899【解説】
Frontiers Science News
Posted on March 22, 2023
by Angharad Brewer Gillham
Unusual Toxoplasma parasite strain killed sea otters and could threaten other marine life
https://blog.frontiersin.org/2023/03/22/unusual-toxoplasma-parasite-strain-killed-sea-otters-and-could-threaten-other-marine-life/#prettyPhoto
以上